「CYCLE by M.Y.O.B.」とは?NY発M.Y.O.B. NYCの次世代ラインを深掘り
- ABSURD公式
- 8月22日
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更新日:8月24日

「CYCLE by M.Y.O.B.」は、単なるファッションブランドの枠を超え、現代社会における消費と創造のあり方に深く問いかける、革新的な存在です。本記事では、その独創的な哲学とデザインの核心に迫り、ブランドが持つ多面的な魅力を徹底的に解説します。
CYCLE by M.Y.O.B.の誕生と哲学
「CYCLE by M.Y.O.B.」は、ニューヨークを拠点とするストリートウェアブランド「M.Y.O.B. NYC」のデザイナー、COMI (コミ)氏によって、2020年に新たなラインとして立ち上げられました。このブランド名は、その哲学を端的に表しています。ここでの「CYCLE」は、「循環」を意味し、ファッションにおける持続可能性と創造的な再構築のプロセスを象徴しています。
従来の「M.Y.O.B. NYC」が持つアグレッシブでエッジの効いたストリートの美学を基盤としつつも、「CYCLE by M.Y.O.B.」は、より洗練された、日常に寄り添うリアルクローズへと昇華されています。ブランドが掲げる最も重要な哲学の一つは、「アップサイクル(Upcycling)」です。これは、単に古着を再利用するだけでなく、古いものに新たな価値と命を吹き込み、オリジナルよりもさらに魅力的なアイテムへと生まれ変わらせることを指します。
COMI氏は、大量生産・大量消費のサイクルに疑問を呈し、ファッション業界が抱える環境問題に対して、デザインの力で答えを導き出そうとしています。彼女は、デッドストックの生地、ヴィンテージの古着、そして時には生産過程で生じる端材までもを素材として活用します。これにより、一つとして同じもののない、唯一無二のアイテムが誕生します。
この哲学は、服を着る人にも深い意味をもたらします。それは、ただ服を購入するのではなく、その服が持つ過去の物語を共有し、新たな物語を紡いでいく、という能動的な行為へと繋がります。CYCLE by M.Y.O.B.のアイテムは、消費者とブランドとの間にある一方的な関係性を超え、共創のプロセスを生み出しているのです。
再構築とアシンメトリー
CYCLE by M.Y.O.B.のデザインを特徴づける要素は、「再構築(Reconstruction)」と「アシンメトリー(Asymmetry)」です。これらは、ブランドの哲学を視覚的に表現する重要な手段となっています。
「再構築」は、ブランドのアイデンティティそのものです。複数の異なる古着や生地を解体し、組み合わせることで、全く新しいシルエットやテクスチャー、そして色彩のコントラストを生み出します。例えば、異なるブランドのデニムジャケットを組み合わせ、大胆な切り替えを施したアイテムや、複数のTシャツを縫い合わせたようなドレスは、ブランドのシグネチャーデザインとなっています。このプロセスは、まるでパッチワークのようでありますが、単なる継ぎ接ぎではなく、計算し尽くされた美学に基づいています。生地の持つ風合い、色褪せ、そして時にはダメージの跡までもが、デザインの一部として活かされます。
また、「アシンメトリー」も重要な要素です。左右非対称の裾、斜めに配置されたジッパー、そして非対称なパターンは、服に動きと生命感を与えます。完璧な均衡を意図的に崩すことで、より自由でダイナミックな表現が可能になります。これは、既存のルールや常識に縛られない、M.Y.O.B. NYCのストリートマインドを継承している部分でもあります。
これらのデザイン要素は、着る人に「自分だけの個性」を表現する自由を与えます。
CYCLE by M.Y.O.B.の服は、一つの完成形として存在するのではなく、着る人の身体と動きによって常に変化し、新たな表情を見せます。それは、単に服を着るという行為を、アートを身につけるという体験へと昇華させるのです。
サステナビリティと物語性
CYCLE by M.Y.O.B.の根幹をなすのは、素材への深いこだわりです。ブランドは、環境への配慮を単なるトレンドとして捉えるのではなく、創造性豊かなデザインの源泉として捉えています。
ブランドが主に使用するのは、デッドストック(dead stock)の生地やヴィンテージの古着です。デッドストックとは、生産終了後、倉庫に眠ったままになっている未使用の生地を指します。これらの生地は、品質には問題がないにもかかわらず、埋め立てられたり、焼却処分されたりすることが多く、大きな環境問題となっています。CYCLE by M.Y.O.B.は、これらの生地に光を当て、新たな価値を与えます。
また、古着の活用は、デザインに物語性を付与します。古着には、それが作られた時代、そしてそれを着ていた人の歴史が宿っています。服についたシワ、色褪せ、そして時には修復の跡は、単なる欠点ではなく、その服が歩んできた道のりを示す「証」です。COMI氏は、これらの痕跡を尊重し、デザインの一部として取り入れることで、服に深みと温かさを与えます。それは、まるで古い手紙を読み解くように、着る人に過去の物語を想像させる力を与えます。
例えば、ヴィンテージのミリタリーウェアやワークジャケットを解体し、新たなシルエットのコートやパンツに再構築するコレクションは、ブランドの真骨頂です。タフで実用的な素材が、デザイナーの視点によってエレガントで独創的なモードアイテムへと生まれ変わります。これは、「タフな美しさ」という、ブランドのユニークな美学を体現しています。
ジェンダーレスなアプローチ
CYCLE by M.Y.O.B.の多くのアイテムは、特定のジェンダーに縛られることはありません。ブランドは、ジェンダーレス(Genderless)なアプローチを積極的に採用しており、男性と女性の両方が着こなせるようなデザインを提案しています。
このアプローチは、ブランドの哲学である「個性の尊重」と深く結びついています。ファッションにおけるジェンダーの境界は、社会的な固定観念によって作られたものであり、真の個性を表現する上で時に障害となり得ます。COMI氏は、そのような境界線を曖昧にすることで、着る人が自分の内なる声に従って、自由にスタイルを表現することを促します。ゆったりとしたシルエットのシャツやパンツ、ユニセックスなアウターは、着る人の体型や性別を強調するのではなく、その個性や内面の豊かさを引き出すことに焦点を当てています。
このジェンダーレスなデザインは、ブランドの服が持つもう一つの重要な側面、すなわち「多様性の受容」を象徴しています。CYCLE by M.Y.O.B.は、異なる背景、異なる価値観を持つ人々が、ファッションを通じて繋がることができるコミュニティを形成しています。それは、単に服を売るだけでなく、より包括的で開かれた社会の実現に貢献しようとする、ブランドの強い意志を示しています。
アートとストリートの融合
COMI氏のデザインのインスピレーションは、多岐にわたりますが、特に顕著なのは、アートとストリートカルチャーの融合です。
彼女は、絵画、彫刻、インスタレーションなどの現代アートから、色使い、テクスチャー、そしてシルエットのヒントを得ます。特に、抽象表現主義やシュルレアリスムなどの、既存のルールにとらわれないアートは、彼女の創造性を強く刺激します。これらの要素が、彼女のデザインにおける大胆な切り替えや非対称的なパターンに反映されています。
また、彼女のルーツであるストリートカルチャーも、デザインに不可欠な要素です。スケートボードカルチャー、パンク、ヒップホップなど、様々なストリートサブカルチャーのスタイルや精神が、彼女の服に反映されています。それは、既存の権威や常識に挑戦し、自分たちのルールで生きるという、ストリートの反骨精神です。この精神が、ブランドのアップサイクルという哲学と深く共鳴し、ファッション業界の現状に異議を唱える力となっています。
アートとストリートの融合は、CYCLE by M.Y.O.B.の服が持つユニークな魅力を生み出しています。それは、単にストリートウェアでも、ハイファッションでもなく、その両方の要素を兼ね備えた、新しいジャンルの服です。それは、美術館の展示品のように洗練されていながらも、日常のストリートで生き生きと輝く力を持っています。
持続可能性と創造性の両立
CYCLE by M.Y.O.B.は、単なるファッションブランドではなく、持続可能な社会と創造的な表現の未来を提示しています。彼らの活動は、ファッション業界全体に、より深い思考と倫理的な行動を促すきっかけとなるかもしれません。
大量生産・大量消費のサイクルから脱却し、一つ一つのアイテムに価値を見出すというブランドの哲学は、現代の消費者が求める「本物」の価値観と共鳴しています。人々は、単に流行の服を身につけるのではなく、物語のある、長く愛せる服を求めるようになっています。CYCLE by M.Y.O.B.の服は、まさにそのようなニーズに応えるものです。それは、クローゼットの中で一時的な流行のアイテムとして消費されるのではなく、着る人の人生に寄り添い、共に時を刻んでいく存在となるでしょう。
また、ブランドは、単に服を作るだけでなく、ファッションが持つ社会的な役割についても問いかけています。彼らの服は、着る人に「あなたは、あなたのままで美しい」と伝えます。それは、社会的な期待や他人の評価から解放され、自分自身の内なる声に従って生きる勇気を与えてくれます。このメッセージは、現代社会において、ますます重要性を増しています。
COMI氏の創造的な旅は、これからも続いていきます。彼女が次にどのような驚きと感動をもたらしてくれるのか、そして彼女の哲学がファッション業界にどのような影響を与えていくのか、私たちは大いに期待し、注目し続ける必要があります。CYCLE by M.Y.O.B.の物語は、私たち自身の、より豊かな人生への旅でもあるのです。