FACETASM(ファセッタズム)とは。東京の混沌が生んだ、多面的なクリエイションの真実【2025年最新】
- ABSURD公式

- 8月8日
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FACETASM(ファセッタズム)。その名を聞いただけで、ファッションを愛する者の心は高鳴る。モードとストリート、相反する要素をシームレスに繋ぎ、常に新しい「顔」を見せ続けるこのブランドは、一体どのようにして生まれたのか。デザイナー落合宏理氏の哲学と、ブランドの歴史を紐解きながら、その唯一無二の魅力に迫る。
東京のユースカルチャーとモードの狭間で
FACETASMの歴史を語る上で、デザイナー落合宏理氏のバックグラウンドは不可欠だ。1977年東京生まれの彼は、80年代のモードブームと90年代の裏原ストリートカルチャーを肌で感じながら育った。80年代には、COMME des GARÇONSやYohji Yamamotoが世界を席巻し、既成概念を打ち破る革新的なデザインが注目を浴びた。一方、90年代には、古着やストリートファッションが若者の心を掴み、高級志向とは一線を画す自由なスタイルが台頭する。
落合氏は、文化服装学院卒業後、COMME des GARÇONSなども主要取引先とするテキスタイル会社「ギルドワーク」で8年間勤務。ここで培われたテキスタイルへの深い知見と、膨大なアーカイブに触れる経験が、FACETASMの根幹を形成することになる。
2007年、満を持して自身のブランド「FACETASM」を設立。ブランド名は、フランス語でダイヤモンドの切り子面を意味する「facet」からの造語で、「様々な顔」「様々な見え方」という意味が込められている。この名前は、彼が目指すクリエイションの本質を雄弁に物語っている。
2012年春夏コレクションでランウェイデビューを飾ると、その独創的なスタイルは一躍注目を集め、2013年には毎日ファッション大賞の新人賞を受賞。さらに2016年には、日本人として初めてLVMH Young Fashion Designers Prizeのファイナリストに選出され、世界の舞台へとその名を轟かせる。アルマーニの支援を受けミラノ、そしてパリへと発表の場を移し、東京発のリアルなクリエイションを世界に発信し続けている。
常識を打ち破る「多面性」と「遊び心」
FACETASMの最大の魅力は、そのブランド名が示す通り「多面性」にある。落合氏が経験してきた80年代と90年代のカルチャーを、独自の解釈でミックスすることで生まれるスタイルは、見る者によってモードにも、ストリートにも見える。この絶妙なバランスこそが、FACETASMを唯一無二の存在にしているのだ。
1. オリジナルテキスタイルが織りなす「新しさ」
FACETASMの服の90%以上は、落合氏が手掛けるオリジナルテキスタイルで作られている。デニムやチノパンといったベーシックなアイテムですら、これまでに見たことのないような素材感や風合いをまとい、新鮮な驚きを与えてくれる。テキスタイル会社での経験が、その圧倒的なクオリティを支えていることは言うまでもない。
2. 変幻自在なレイヤードとシルエット
レイヤードは、FACETASMのスタイルを象徴する要素の一つ。単に重ねるのではなく、それぞれのアイテムの丈感やボリュームを計算し尽くした、高レベルなレイヤードを成立させる。極端なビッグシルエットでありながら、着用すると美しいAラインを描くような緻密なパターンメイキングは、モードな雰囲気を醸し出し、見る者を惹きつける。
3. ストリートとモードのハイブリッド
ラフな古着のテイストを取り入れつつも、光沢のある生地を使ったり、緻密な刺繍を施したりと、細部にまでこだわり抜かれたデザインは、ストリートの野暮ったさを削ぎ落とし、洗練されたモードな表情へと昇華させる。ベーシックなアイテムに、絶妙な「遊び」を加えることで、ユーモアと上品さを両立させる手腕は、まさに職人技だ。
4. コラボレーションが示すブランドの広がり
NIKE、Coca-Cola、Levi'sといったグローバルブランドから、ファミリーマートの「コンビニエンスウェア」まで、そのコラボレーションの幅広さもFACETASMのユニークな点だ。ストリートとモードの垣根を越え、様々なカルチャーや生活に溶け込むことで、ブランドのクリエイティブな視点をさらに拡張している。
FACETASMは、ただ服を作るだけでなく、ファッションの楽しさや奥深さを教えてくれる。その服に袖を通すたびに、新しい発見があり、自分のスタイルを再構築する喜びを味わうことができるだろう。これからもFACETASMは、常識を打ち破る多角的な視点から、ファッションの世界に新たな風を吹き込み続けるに違いない。
世界に挑む「東京発」のリアル
FACETASMが世界に認められた背景には、東京という都市が持つ独特のエネルギーと、そこから生まれるリアルなファッションがある。ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリといった伝統的なファッション都市とは異なり、東京はストリートカルチャーとハイファッションが混在し、常に新しいものが生まれる混沌とした場所だ。
落合氏は、この東京のリアリティをFACETASMの服に落とし込んでいる。彼のクリエイションは、いわゆる「モード」という枠組みに収まりきらない。例えば、あえてほつれたままにされた糸、パッチワークのように再構築されたデザイン、オーバーサイズのアイテムなど、一見すると「未完成」に見える要素が、FACETASMの服には散りばめられている。しかし、それは決して手抜きではなく、東京という街で生きる若者たちの、不完全で、それでも力強く生きる様を表現しているかのようだ。
2016年のLVMHプライズのファイナリスト選出は、FACETASMにとって大きな転機だった。これを機に、パリでのコレクション発表をスタート。東京での発表とは異なり、より洗練された演出と、世界のトップメディアやバイヤーの目に留まる機会を得た。しかし、その根底にあるのは、あくまで東京で培われた感性だ。
FACETASMの未来『進化し続ける「顔」』
FACETASMは、過去の成功に安住することなく、常に新しい挑戦を続けている。近年では、サステナビリティへの意識も高まり、アップサイクルやリサイクル素材を取り入れるなど、持続可能なファッションへの取り組みも積極的に行っている。
ブランドが設立されてから15年以上が経った今も、FACETASMはファッション業界の常識を打ち破り続けている。落合氏が持つ、テキスタイルへの深い知識と、東京のストリートカルチャーからインスピレーションを得るユニークな視点が融合することで、これからも我々に新しい驚きを与え続けてくれるだろう。
FACETASMの服は、ただ身につけるだけでなく、その背景にあるストーリーや、デザイナーの哲学を感じさせてくれる。それはまるで、多面的な魅力を持つアート作品のようだ。ファッションを愛する者にとって、FACETASMは単なるブランドではなく、自己表現のための「ツール」であり、「インスピレーション」の源なのだ。



